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ピース・インタビュー Vol.10

私たちの未来は、子どもたちが創る。

森 由美子/特定非営利活動法人パンゲア 理事長

2001年9月11日、ニューヨーク同時多発テロが発生。この日を境に世界は激変しました。この日、世界のほとんどの人とは全く違う現実を受け入れようとしていた人がいます。後にNPO法人パンゲアを立ち上げた森由美子さんです。森さんは9月11日に墜落した飛行機のうちの一機、ユナイテッド93便に搭乗する予定だったのです。

「あの日死んでいたかもしれない」というリアリティーが彼女の人生の流れを大きく変えました。そして、自分に問いかけます。「死ななかった自分は何かしなくちゃいけない」「何ができるんだろう」と。

当時のアメリカは、911という未曾有のテロを経験し、急速に外国人、特にアラブ系住民への見方が変わっていきました。アラブ系住民であるというだけで嫌がらせをされるなどの事件がこの頃多発していたのです。

ただ相手を知らないというだけで偏見や差別が起きていることを問題に思い、森さんが始めたのが世界中の子どもたちが言語と時間・空間の障壁を乗り越えてつながり、出会い、一緒に遊んで交流を深めることのできる遊び場、パンゲア(PANGAEA)です。

「私たちの未来は、子どもたちが創る」。子どもの教育によって世界から差別、偏見をなくし、平和構築に挑戦する森さんに話しを伺った。

文/関根 健次 取材/2007年12月1日

■プロフィール
Saint Mary's College, California卒。幼児心理学・幼児教育学を専攻。スタンフォード大学Schizoprenia Biology Research Center, Palo Altoで研究員のあと、UCLA教育学部 博士課程を中退し、帰国。玩具メーカーのトミーに入社。1999年に退社し独立。子どもが使うツール(玩具)、スペース、取り巻く人間関係の3つのバランスが良いことが子どもの健全な発育につながるという持論を実践するため、スペース作りに取り組む。
2002年よりメディアラボ客員研究員としてオフィスをメディアラボ内に持つ。
現在、世界の子どもたちが「つながり」を感じられる環境をネットを通して実現していくProject Pangaea(パンゲア)をスタート。2003年4月に東京都よりNPO法人の認証を受理した。パンゲア理事長を務めて現在に至る。


――まずパンゲアの活動内容についてご紹介いただけますか。
パンゲアは、言語と時間・空間の障壁を乗り越えて、世界中の子どもたちが個人的なつながりを築いていくための場、「ユニバーサル・プレイグラウンド」を創ることを目指しています。

子どもたち自身には一緒に遊びたいという気持ちがあります。子どもたちが一緒に遊べる場「ユニバーサル・プレイグラウンド」を作ることで、世の中を良くすることができる、平和に貢献できるんじゃないかと考えています。子どもたちが国を超えて想像力とか思いやりの心を感じられるようになったら、無関心ではなくなります。すると、知らないから起こる偏見や差別はなくなると思うのです。

――パンゲア設立前は、何をされていたんですか。
大学、大学院とアメリカに留学していました。合計11年アメリカに住みました。卒業後は、日本に帰国して玩具会社のトミーに入社して、最初は翻訳の仕事を任される派遣社員でした。

あるとき新規事業の社内公募があったので、応募したのですが、企画が認められて正社員となり、本社の企画部に転籍しました。私は幼児教育を専攻し、幼稚園の先生をしていたこともあったので、子どもの教材とか子どもが使うおもちゃについては経験もこだわりがあったんですね。そこで知育玩具を始めてはどうかという提案をしたんです。

転籍して2ヶ月後か3ヶ月後には室長に抜擢され、年間予算を持たされました。ベビーと幼児のおもちゃの企画の仕事でしたが、企画だけでなく、販促計画など何から何までやりました。いい経験になったと思います。

しかし、途中で会社との考えに相違が出てきました。当時はポケモンブームで、会社もキャラクタービジネスにどんどん投資をするという方針が打ち出されたんです。私はキャラクターよりも、質の良い、子どもたちが何度も繰り返して使えるおもちゃを作りたいと思っていたんで、思い切って辞めることにしたんです。

辞めてすぐ一人で会社を設立して、自分でトミー時代に知り合っていたデザイナーと組んで、在職中の取引先だった大手玩具メーカーの役員の方などに企画を売り込むと、すぐ売れたんですね。会社を辞めて良かったと思いました。

あるとき(株)CSKの方より、場所があるから何か提案してくれと相談されました。そこで、子どものためのワークショップセンターを作ったらどうですかと提案したんですね。それを故大川会長にご提案したところ、「それいいね。子どもが未来を創っているから、子どものことをしっかりやらなければならない」とおっしゃり、プロジェクトが動き始めたんです。私が総合プロデューサーでした。大川さんが亡くなられる十ヶ月前ぐらいのことです。

ゼロからプログラムを作るわけにいかないし、短時間で立ち上げが必要だったので、MITのメディアラボと組みました。もともとMITメディアラボとはトミー時代につながりがありました。メディアラボからCAMPというワークショップセンターからクリケットというプログラムを持ってきたりしました。

――このセンターの準備をしていた最中、911を体験するんですよね。
はい。このセンターは、2001年4月8日にオープンする予定でした。しかし、直前の3月末に大川さんが亡くなられたため、オープニングセレモニーを10月に延期することになりました。ですから2001年9月頃は、セレモニーの準備で東海岸と西海岸を行ったり来たりしていました。そうやって全米を飛び回っていたとき、911が起こりました。

9月11日、私とパンゲアのもう一人の創立者でMITの客員研究員をしていた高崎は、サンフランシスコで打ち合わせがあるため墜落することになるユナイテッド93便に乗る予定でした。ところが前日の9月10日のニュージャージの打ち合わせがずれたため、3日前にこのフライトをキャンセルしていました。そして、運命のあの出来事が起きたのです。

911の後日本に戻りましたが、準備のため再びボストンに行きました。そしてすぐサンフランシスコまで行かなければならなくなったんですが、もう飛行機には乗りたくなかった。そこで車でサンフランシスコを目指したんですが、そのとき聴いていたラジオから、「外国人を入れるからこういうことになるんだ」というようなコメントが聞こえてきたんですね。これを聞いてアメリカはやばいことになってきているってことを感ました。ボストンに戻ると、イスラムの人たちに対しての知識がないばかりにイスラムの人たちを不気味がっているなど、まずい状況になっていました。

――それで、偏見をなくすために活動を始めたんですね。森さんにとって911はきっけ程度の事件だったのでしょうか。それとも人生を大きく変えたイベントだったのでしょうか。
それはもう、大きく人生が変えられた出来事でした。これが起きなければ玩具のビジネスで裕福に暮らせていたとは思うんですけど(笑)、パンゲアを思い立ってしまったために、財産をすべてパンゲアに突っ込んでしまいましたからね。

それまでは一個のおもちゃを売っていくらと計算していた自分がいましたが、911以降は、「あの日死んでいたかもしれない、でも死ななかった自分は何かしなくちゃいけない」って気持ちになりました。そこで「自分にはいったい何ができるんだろう」と、思うようになったんです。

――自分が乗るはずだった飛行機が墜落したんですからね。それは考えさせられますよね。でもそこからなぜ世界の子どもに注目したのでしょうか。
私たちの未来は、子どもたちが創るからです。子どもたちだったら面白ければ自分たちで勝手に遊ぶし、そのとき遊ぶ仲間の国籍や宗教なんて気にしないで遊ぶと思ったんですね。そこで、私は、「ユニバーサル・プレイグラウンド」というインターネットで世界の子どもたちが遊べる共通の公園を作って、つないじゃおうと思ったんです。

子どもたちが楽しそうだって寄ってくる場所をまず作って、その場所で世界中の子どもたちが時間を共有するなかで、少しずつお互いの顔が見えてくるのではないかと思ったんです。

MITのみんなにこんなことを考えていると言ったら、予算を付けてくれたんですね。それで、様々な国に行き、こんなものを作りたいとプレゼンすると、どの国も反応がよかった。ケニアでは滞在中に現地でパンゲアが立ち上がったほど受けがよかったんです。

――そうやって立ち上がったんですね。ケニア以外の国でもすでにパンゲアを展開されていますよね。
今はオーストリア、ケニア、韓国、日本で展開しています。世界展開するためのツールは出来上がりましたので、これからいよいよ本格的に世界に向けて発表していくところです。

――パンゲアの具体的なプログラム内容を教えていただけますか。
例えばなかなか海外に行くことや、海外の人たちと触れ合う機会がない子どもたちでもインターネット回線で世界中とつながるパンゲアを使えば、海外の子どもたちと出会えて、知り合うことができます。

外国に行ったことがなくても、その国の言葉であいさつができるようになるだけでも、その国との距離感がぐっと縮まると思うんです。パンゲアがやろうとしているのは、つながりを作ることではあるんですけど、つながりを作るには、共感できる心の土壌みたいなものを育んであげることが大事。そのためには、相手がどう感じるんだろうということを、まず子どもたちが気にするようになるってことが第一歩なんです。

小学校3年から中学校3年が対象で一緒に活動しているんですが、ある日本の小学校高学年の男の子が、いろんなゲームの影響もあるのか、パンゲアで、人を車ではねるような、暴力的なゲームを作ったりするんですね。そこに罪に意識はないんです。

それがケニアだと交通事故がすごく多くて、自分の家庭に交通事故で家族を亡くした体験を持っている子どもが多いんです。こういうことを日本の子どもが知ると、自分の家庭がもしそうだったらって発想できるようになるんですね。すると、自分が作ったゲームが、相手に嫌な気持ちにさせてしまうかもしれないと、共感できるようになるんです。そうすると、子ども自身がやっぱりこんなのは出せないから、別なものを作ろうと思うようになるんです。

これって国際平和から遠いようですが、すごく大事だと思っています。一度これが分かった子どもは、まだ分かっていない子どもに説明するんですよ。子どもたちが自分で考えて、思いやりをはぐくんでいけるんです、パンゲアで。

たとえば先日、ウィーンとソウルと京都の3都市の英語が母国語でない子どもたちをWebカメラなどを使ってインターネットでつなぎ、2時間一緒に楽しく遊んだんです。たぶん一生会わないかもしれない、一回も会ったことのない人たちと知り合えて、つながりを感じることができたら、結構すごいことじゃないかと思うんです。

――母国語が違う子たちがどうやって一緒に遊べるんですか。
言葉が全然違うので、言葉のゲームはできないんですね。だから子どもたちがまず、一斉にカメラに向かって、「パンゲアー」って叫ぶんです(笑)。最初子どもたちも緊張しているのでアイスブレークとしてこれをやるんです。これを、「こえつな」と呼んでいます。それぞれ7秒間叫ぶんですが、声のレベルによって、画面のなかで押し合いをするんです。声を出すと、お互い緊張がほぐれるんですね。

あとは、「おとびこ」といって、タンバリンやカスタネットなどの楽器を使ってゲームをするんです。言葉を使わずに一緒に遊べるゲームを、開発してやっています。また、パンゲアでは「ピクトン」という絵文字も開発しました。これを使って子どもたちが言語を使わずにコミュニケーションできるんです。

※提供:NPO法人パンゲア(パソコン内映像)

――パンゲアさんの仕組みって、実は相当な高い技術が使われているように感じたのですが。
そうなんです!例えば多拠点にいながら、一度のインプットで同期が取れるというものを開発しました。実はバックボーンには大変な技術を使っているんです。ほかには、オーストリアのメンバーとの会議では、言語グリッドという私たちの研究パートナーの機械翻訳を使って、お互い母国語で打ち合わせをしています。

パンゲアの創設者の一人の高崎が、東大工学部を出てMITに行っていますので、もろ技術人間なんです。だから彼が中心となり、開発を進めています。よくこう言っています。「技術って武器を作るために莫大なお金が使われるけど、平和のためには使われないよね。私たちは、平和のために技術を磨こうよ!」と。こういう考えを「ピースエンジニアリング」と呼び、呼びかけています。この考えに賛同した多くの技術ボランティアがパンゲアに協力してくれています。

――今後、どのような展開を考えているのでしょうか。
私たちは、あと10年で5拠点とかのんびりやるつもりはないんです。世界でみんなにやってもらわないと、意味がない。そこですでに世界中に信頼され、ネットワークを持っているユネスコと提携しました。ユネスコはすでに世界140カ国でCommunity Multimedia Centres (CMCs) といって、デジタルデバイドを埋めるためのインターネットとその関連するテクノロジーを途上国に提供する活動を展開しています。パンゲアのプログラムを、まずは来年1月に、ケニアのセンターで始めることが決まっています。

――課題に感じていることはありますか。
子どもたちの教育をテーマにしておりますが、問題に対してすぐに結果がでるものではないんですね。緊急性という意味では、私たちがやっていることよりも緊急支援活動などの方が優先されてしまう。重要な活動なのに、大本のところを何とか変えようということに対して、なかなか理解もされないし、政府や個人からもお金がでないんですね。

日本で資金集めをしていると、「運営費にはお金使ってはダメ。全額プロジェクトに使いなさい」というような、助成プログラムが多いんですね。これは私たちのような、時間のかかる研究開発型NPOにはきついことです。私たちのような団体にもお金がでるように、変わって欲しいですね。

――ありがとうございました。

森 由美子さんより、記事を読んでいただいた方へのメッセージ

911のようなきっかけがあって今の活動を始めた私ですが、自分ひとりでは何か社会のために貢献したくてもなかなか効率よく動けません。全ての人には必ずできることが何かあるはずで、それが見つかりそうな予感のする活動にまず飛び込んで見ることから新しいことが見えてくる。

自分の時間を少しからでも提供することから始められる社会貢献。時間の無い方はその分経済的に貢献することもできます。民間からできる国際貢献も実はその活動はひとりひとりの参加からです。まだやっと4カ国のパンゲアですが、これからアフリカ・アジア・ヨーロッパ地区に拠点を増やしていきます。興味のある方、ぜひご連絡をお待ちしています。

参考サイト

NPO パンゲア


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