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投資の運用益の10%をNPOなどの社会起業家に投資をする。“寄付”ではなく“長期投資”という概念で社会起業家をサポートするために「日本社会起業家育成資本プログラム」を立ち上げた渋澤健氏。
近年“社会起業家”に注目が集まっているが、既に2001年から注目していた先見性のある渋澤氏は、あの渋沢栄一の孫の孫でもある。
今後、社会起業家への支援をどのように広げてゆくのか、渋沢栄一からどのような影響を受けてきたのか。今後の活動や彼自身の人となりについて、お話を伺った。
文/小堤 音彦 取材/2008年7月28日

■プロフィール
1961年生まれ。1983年にテキサス大学 BS Chemical Engineering を卒業後、財団法人日本国際交流センターに入社。1987年にUCLA大学MBA経営大学院卒業後、ファースト・ボストン証券に入社し、1988年にはJPモルガン銀行に入社する。その後、JPモルガン証券(1992年)、ゴールドマン・サックス証券(1994年)、ムーア・キャピタル・マネジメント(1996年)を経て、2001年シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し、代表取締役に就任し、現在に至る。
主な著書に、「巨人・渋沢栄一の『富を築く100の教え』」、「これがオルタナティブ投資だ!―ヘッジファンドからリートまで『超アクティブ運用』のすべて」、「シブサワ・レター 日本再生への提言」、「渋沢栄一とヘッジファンドにリスクマネジメントを学ぶ」がある。
――まず、投資の運用益の10%を社会起業家に還元しているという、SEEDCapを始めたきっかけについて教えて下さい。
きっかけはアメリカの同時多発テロがあった9.11です。アメリカのシアトルは雨がたくさん降る場所で有名なのですが、その日は晴天だったにもかかわらず、飛行機が1機全く飛んでいなかった。電話一本で何十、何百億のお金が動く仕事をしてきましたが、その日は人も物も全く動かない。社会がしっかりと機能する前提・常識が覆されてしまったんです。
――なるほど、9.11がきっかけとなっていたのですね。
そうなんです。とはいえ、自分一人では“セーブ・ザ・ワールド”は当然できない。そんなとき印象に残ったことがあります。私が勤めていた米国大手ヘッジファンドの創業者たちは、天文学的な収入を得ています。しかし、9.11の後、私の前の会社のボスが、NYミッドタウンにある本社の近所にある消防署の亡くなった隊員のご家族のために、即効に基金をつくったんですね。ダイナミックにお金を儲けると同時に、税金にとられて政府の価値観で分配されるのではなく、自分の考え・思いでお金を直接的に社会に還元していくというのは、とても印象に残っていました。
ロビンフッド財団は、ヘッジファンドの創業者やその他ニューヨークセレブの人たちが、運営費を自分のお金で出して事業の運営費をまかなう仕組みになっているため、ファンドレイジングディナーなどからの資金は100%ニューヨーク地域の貧困問題に使えるという特徴があります。こういうのは、ひとつのソーシャル・イベントとなっているのですが、日本では全く無いなと思っていました。お金を儲ける金融と社会活動が、全くつながっていない。日本でも小さな実験でいいからやってみようということで始まったのが、SEEDCap(日本社会起業家育成資本プログラム)なんです。
――SEEDCapの関係者はどのような方々なのですか。
ちょうど、9・11と同年の2001年に出会った、ボイジャーマネジメントという「ファンド・オフ・ファンズ」は、基本的に米国で富裕層向けのビジネスをやっていたのですが、、機関投資家向けにも事業を広げたいと思っていました。私は、同社と日本の機関投資家の関係を深めるためにお手伝いしたいと思っていたので、SEEDCapを提案してみたんです。つまり、日本人のお金を預かっている訳であるから、運用が成功して収益が上がった場合、その一部を日本社会に貢献してくれないかというアイデアでした。もちろん、投資家とマネジャーとの間は純粋に経済的な概念でコミュニケーションをとっており、他のファンドに劣ることなくそれ以上のパフォーマンスを出します。しかし、そもそも日本で収益をあげるのであれば、成功報酬の10%を日本の社会起業家に寄付という形で「投資」してみませんか、と。社会的リターンを日本社会に還元すれば、もともとお金を出している投資家さんにも還元できますね、ということで始めました。
ファンド・オブ・ファンズのことを“ゲートキーパー”ということもあります。つまり、多様多数のヘッジファンドマネジャーの中から、いかに優秀なマネジャーを選別し、運用を任す「門係り」です。 多くの社会起業家から、最も有能な候補を選別するという意味で、同じようにNPOや社会起業家に関しても専門性をもっているところと組めばよいと考え、日本国際交流センター(JCIE)という日本における非営利・非政府活動の草分け存在の財団法人に「ゲートキーパー」としてお願いしました。
――今まで実施されてきて、手ごたえはいかがでしたか。
SEEDCapは今年で5回目で、今回から初めて公募します。今まで実例では、書類審査の段階で事務局に振り分けてもらい、最終候補の3団体には審査委員会にプレゼンをしてもらうことになっています。審査委員会は事務局+私+ボイジャーのファンドに投資してくださった機関投資家さんに参加してもらっています。機関投資家さんは任意で、ご関心があれば参加してくださいと言っています。「通常の業務と関係ないということでお断りさせてください」と言われる先もありますが、「それはいいですね!」と参加するところもあります。
――ボイジャーマネジメントの行っている運用に、何か特徴はあるのですか。
ヘッジファンドに投資をするファンド・オブ・ファンズで、特に環境ビジネスなど社会貢献を意識した投資を行っている訳ではありません。つまり、有能なヘッジファンドマネジャーに絶対的な好収益を上げてもらうことが運用の特徴で、その運用の成果から上がった収益を日本社会とシェアしましょうというところにボイジャーの創業者たちの想いがあるのです。
――運用益の10%が寄付になるということについて、投資家の皆さんの反応はいかがですか。
投資家さんによります。私たちは、「社会貢献」をマーケティング用のマーケティングとして使っていません。前面に出して、うさんくさくなる印象を与えるのが嫌なんです。まず、ボイジャーマネジメントのパフォーマンス・人格を見てもらって、その人格の一部として「社会起業家への投資を行っているんだ」と、思ってほしいんです。
――先ほど、社会的リターンおっしゃいましたよね。種として投資をするわけですから、何らかのリターンを見ると思いますが、何か測っていらっしゃるのでしょうか。
それは非常に大切で、かつ、難しい概念です。社会的リターンというのは、ロビンフッド財団も、助成先に要請している必要条件です。もともとロビンフッド財団は、ファンドマネジャーさんたちがやっているので、慈善活動というよりも、まず投資とみているので、「出資」に対して「成果」を求めることは当然であるといえます。
経済的リターンというのはある意味簡単で、数値化できるんですよ。資金を投入して、いくら儲かったのか。そういう意味でわかりやすいんです。しかし、ニューヨークの貧困問題のために、教育のためにこういうプログラムをしました。じゃ、どういうインパクトがあったの?というと、これがわかりにくい。しかし、「わかりません」と言われたらロビンフッド財団は投資・出資をしないことにしています。定量化だけとは言わないが、何かインパクトがあって説明できることがポイントとしてあります。こういう効果がありましたと伝える能力が必要なわけです。
しかし、そこも課題なんですよ。アメリカの財団が「ソーシャルインパクト」について研究をしているところもありますが、数字っていくらでもつくれちゃうじゃないですか(笑)。数字を出せと言えば出せるが、その数字に意味があるものなのかというとクエスチョンマークです。そういう意味で、ソーシャルインパクトというのは、大切なところなのですがなかなかカチッとしたものがない。そこが、今後のひとつのチャレンジだと思っています。
社会的リターンというのは今の資本主義の中でとても大切な意味があって、すべてが数値化できて説明できるというわけではないと思います。数値化できないとか見えないところの価値を含んでいることと思います。また、同じ時間軸で比べていません。経済的リターンは年間何%まわりましたか、ということで1年です。社会的リターンは、場合によっては数か月。10年、20年、30年かかるかもしれない。同じ土台では比べていないという難しさがあります。
――これまではどのような社会起業家に投資をしてきたのですか?
第1回はOurPlanet-TV、第2回はNPO法人フローレンス、第3回は、NPOコトバノアトリエとホスピタリティ・ゲストハウスをやっている難病児の夢と親子のハートフル・ホリデーです。後者がモデルとして面白いとおもったのは、今までは比較的若い人たちだったのが、退職された新聞会社のお二人がやったものです。段階の世代退職されたセカンドライフにこういう生き方があるという一つのメッセージを打ち出している。第4回は、芸術家のくすり箱とKOMPOSITION。
このとき思ったのが、審査委員会の人たちがどういう候補にに投資したがるのか、ということです。僕なんかは、起業家というイメージで見ていますから、「こいつらなら何かやってくれるんじゃないかと」という候補をを評価します。でも、他の審査委員のご意見は、「こういう人たちは助成しなくても、自分でできそうだから、心配だから助成してあげなきゃという先の方がいいのでは?」という意見がありました。ある意味でこの世界というのは「俺は何でもできるんだ」という営利の起業家で打ち出していくと、お金は集まりにくいのかなという難しさを感じました。
――今まで様々な団体に投資をされているようですが、テーマは決まっていないのですか。
テーマは“次世代”です。次世代のためのものであれば、なんでもいいと思っている。使い方も普通の助成金であれば、特定事業のために使いなさいと言われますが、SEEDCapの場合は、そういう意味での縛りが無い資金なんです。一つのプロジェクトより、事業全体の「キャパシティ・ビルディング」、持続性のための土台を作るための財源として活用してほしいですね。
――助成金を出したあとのフォローはあるのですか。
受賞者には必ず、年に1回報告に来てもらっています。私は、募金と寄付の違いというのは、募金は不特定多数のもので「投げっぱなし」の性質の資金だとすると、寄付というのはキャッチボールだと思っています。玉は投げたら投げ返してもらわないと、また玉を投げることはできません。
なお、私はノンプロフィットというのは、事業を行って売上があってもいいと思っています。つまり、NPOはNon Profit Organizationであり、NRO、(Non Revenue Organization)ではありません。プロフィットの場合は、(1)内部留保するか、(2)株主に返すか、(3)再投資するか、の3つです。ノンプロフィットの場合は、(1)内部留保があってもいいし、(2)再投資があってもよくて、投資家に収益を還元しないいうことだけが、違いなんじゃないかと思っています。税当局は、残念ながら、そう思ってくれなく、財団やNPOにある程度の内部留保が生じると課税対象になってしまうのですが。
――今後はどうされていくおつもりですか。
ボイジャーマネジメントからは、パフォーマンスが良いとまとまったお金が入ります。しかし、収益があがらないと成功報酬は0となってしまうので、ある程度、助成資源を蓄えていくことも必要です。また、仮に金額がたくさんあった場合、助成先の数を増やすのか、金額を増やすのかといったとき、金額を増やした方がよいのかなと思っています。数を増やすと事務作業が増えてしまって、かえってガツンと出した方がインパクトがあるのかなと思います。ただ、その反面、3年目になるとなくなってしまうわけですから、あんまりやりすぎても、「バブル」が生じてしまい、結果的に持続性がなくなる本末転倒の状態が生じる恐れがあります。
――ちなみに、私も読んでいるのですが、渋澤さんはブログを2つ書いていますよね。
「渋澤健のオルタナティブ投資日記」はその日、気がついたことなどをまとめています。「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」については、渋沢栄一の書いた『論語と算盤』について研究して紹介しています。現在お休みしていますが(笑)『論語と算盤』について一言で言うなら、富の永続性、サステナビリティを言っているんだなというのが私の解釈。現代人にとってはとても読みにくかもしれませんが、噛み砕いてみると現代でも使えるんじゃないか、ということで2004年からブログで始めたんですよ。それをわかりやすくまとめたのが、「巨人・渋沢栄一の『富を築く100の教え』」という本です。
――ありがとうございました!
社会というのは誰かに与えてもらうのではなくて、自分たちでつくるものです。社会に対する当事者意識が無いといけません。日本人は、お任せ主義っぽいところがあります。自分たちで日本社会をつくるという思いが無くて、世界に貢献しようという思いも少ない。その少ない中で、新しいことにチャレンジする社会起業家が出てきている。だから、私は彼らを応援したいんです。
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